sappalenia’s blog

無責任な戯言です

本感想: 「ネジの回転」

・体裁について

ネジの回転(ヘンリージェームズ著)、手記という体裁で「私」の独白がつらつらと書かれていくという形式。その彼女は、ある恐ろしい出来事に直面し、それにどう対応していたかが主観的に語られ、読者はただ黙って彼女の苦しい内面を読み進めていくことになる。

・ジャンルについて

心理主義小説の先駆けと言われており、またホラー小説ともされる。つまりサイコホラー。また、彼女の心理状態からして、いわゆる信頼できない語り手が地の文を書き連ねてゆく。その為、読者の、彼女に対する信頼がこの物語への印象を大きく変化させることになると思う。

・所感じみたもの

物語冒頭で、彼女は聡明だとされる。実際、読み進めていくことになる彼女の手記には、彼女の内なる心情や思考の様子が克明に描かれており、彼女の起こす行動の意図を彼女自身よく理解しており、統制もされていることが分かる。これらは確かに、彼女は聡明なのだろうなと印象づけるに十分だった、ように思う。(メタ認知能力は知性といって差し支えないだろうから、という判断に基づいて。)

さて、彼女は田舎からロンドンに出て、そこで二児の家庭教師の仕事を請ける。雇い主は紳士で、彼女は一目で惚れる。二児は郊外の居館に複数の奉仕人と一緒住まいで、彼女はそこに一人赴任する、寂しさと希望を抱えて。ここでひとつ、彼女はおそらくとても敏感になっている。田舎を出、赴任先の仕事次第で雇い主への奉公の実感も変わるから尚更。

彼女はよく他人を分析する。たとえば隔離されたその館でただ一人の協力者と考えていたグロース夫人は、よく彼女からの印象が描かれる。そしていつも協力してくれることをありがたいと思っていることが手記に描かれる。さて、彼女の教え子はマイルズ(男児)とフローラ(女児)で、これらは絵画の天使並みの美しさを持ち、なおかつ天賦の才と言える程に全般賢く、また周囲に決して迷惑をかけない、という心まで均整のとれた稀なる子らなのだが、彼女はこれを非常に喜ばしく思う。順風満帆な出だしだ。

ではここで、手記から察せられる彼女の浮き沈みを外観してみる。

・才気煥発、容姿端麗の二児にぞっこん

・事件が起こる。それに悩むが二児に癒される

・事件がまた起こる。余裕が無くなってくる

・自分が事件を起こす

終盤の内容を言ってしまったが、彼女は事件を起こす。彼女は自身に疑念を持ち、苛まれるが、しかし正義感と決断で迷いを払拭し、その行動はどんどんと激しさを増していく。それは彼女の周りで起こることが激しさを増すからなのだが、しかしその出来事はおそらく彼女しか観測していない。このことから、読者は彼女の主観を疑うことが可能となる。ここで二つに区別して考えられる。

・彼女の主観が狂ったか

・真に彼女にだけ観測される客観的事実だったのか

この区別はおそらく分かりっこないので、要は彼女は追い込まれていたことだけが真実だろう。そして最後に事件を起こしてしまう。

最後に、ここが一番気になるところだったが、この手記はいつ書かれたのか。事件が終わった後に書いたのだと思われるが、では記憶の捏造はこの手記には含まれていないかどうか。ここがこの小説あるいは彼女を推測する上でキーになる気がした。