sappalenia’s blog

無責任な戯言です

M3 ソノ黒キ鋼を観た

久々の投稿だ〜。

アニメ感想です。

 再視聴してやはり面白かったので以前書いた感想を載せてみます。内容に多く触れているので、未視聴の方は読み進める際、ぜひご検討ください。

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m3 ソノ黒キ鋼を視聴して

(2014年、サテライト作)


・まず率直な感想から

  最近見た中からは抜きん出ていると感じた。

  opが双方素晴らしい。映像、曲の面で。これだけでなんか感動する。

・感覚的なもの

  静かに、しっとりと物語は進行する。思考を止め、この世界に浸る事で心地よさは得られると感じた。主人公が感情移入の主対象であるならば、心に響いてくる事は何度かあると思う。そして最後に新たな一面を見せた主人公には、何だか嬉しさを感じられて良かった。

この物語には、前半と後半が在ると言っていいのでは。後半はより目的が定かになった感覚がある。次々と事実が明らかになって行くのは、観てて楽しかった。ツグミの示した人間感情の複層的な面は、個人的に非常に好ましい。あの迷いや相反する感情の同居は、人間の基本的な振る舞いであり、それを物語の中に落とし込み、尚且つ進行の道具として行くのは、制作した人間の技量によるものなのではないかと。

・各人間について

  アカシはアニメキャラとしては受容されにくい。トラウマを持ちながら且つ正常に機能する人間として振る舞うには、あのような攻撃性や排他性、個人主義は自己を保つ基本的態度として通常であると考えられる。兄は陰で支えたようだが、そのようなある意味間接的な愛情の示し方ではなかなかアカシが心を開けないのは自然と見える。時に、他人へ頑張る姿だけを見せるのは途方も無い恐怖になるのかも知れない。結局のところ、アカシはそういう普通らしい人間として描かれたのだと思う。物語に特有の、何故なのか強靭な精神であるだとか、状況に左右されず目的意識をハッキリさせた人間ではなかったのが、受容され難い原因であると思う。何故なら、そんなありふれた人間像をわざわざ映像の中にまで見たいとは思わないからだ。このキャラを魅力的と感じる為には、ある種の物語的な期待を削ぎ落とさなければならない。その視点から見ると、このキャラクターは破綻なく面白いと思う。

  ミナシは個人的に一番危険な性格を示したと思う。やたらとアカシに突っかかったのが、そちらに感情移入している身としては腹立たしいものがあった。ミナシはポジティブが過ぎると感じられた。周りに順応しつつ、その胸中には周囲を度外視した望みを持つというのは、割と危険信号だったりする。それを終盤の波乱の局面で示してくる辺りは、それへの対応を現実的な計算に求めたのではなく、自身の感じる理想へと転換することにより、太平を目指そうとしたある意味、序盤に示した幼稚性の小賢しい変化であったと言ってよいのではないか。これは実際の精神態度としても考えられる事で、自身の行動に迷いがなさ過ぎるのが引き金となってしまった。アカシが闇落ちしたら多分こんな人間になる。抗うことをやめて逃避行に走ったんじゃないかと思う。

エミルは可哀想だった。物語的には最初の起点となったキャラクターだろう。これまたありふれた感じの人で、視聴者へのメッセージとしては案外重要な体現者だったような気がする。絶対ミナシとはうまくいかない。気丈に振る舞う側面と辛い過去による悲しさの二面を示すが、同じ悲痛を抱えるアカシと違うところは、あちらに対して卑屈に構える訳でもなく、寧ろ抗って見返してやろうというその反骨精神を持つところではないかと思う。他人を避けるのではなく、寧ろぶつかって超えてみせようという精神は、アカシとよい対比になっていて面白く、そしてその彼女が真っ先に不幸に直面するのは世の厳しさを感じさせるようで良いと思った。真っ向から挑む人間ほど世の苦しみを味わい易い。

  マアムはキャラが立っているという印象を受けた。序盤から小説を書いていたが、周囲に関せず勝手にそれをやっているところは、卑屈な心を素直にさらけ出す清々しさがある。そしてそれを他人にぶつけず、独り紙面の内へと書き記すだけに留めているので、他人を害する悪い人間ではないと言える。マアムもまた自信が無く、臆病な人間であると言えるが、そんな彼女に対してアカシがより臆病者として強調されたのは、アカシがその側面を包み隠して突き進もうとした為ではないか。裏返してみると、マアムは分かりやすい単純な人間と言える。それ故に親しみ易く、その側面さえ受容できるなら割と信用を勝ち取りやすい人間性を示していた。

  イワトはアニメキャラではよくいるだろう、あまり何も考えずというか難しいことを考えずに行動するタイプだった。自分を納得させるのが上手く、世渡り上手と言える。世が世の為に、あまり軽い感じは受けなかったが、良い感じで暗澹とした雰囲気を和らげていた。物語的には脇役ではあったが、居るだけで安心するタイプの良い脇役であった。

  ライカは純粋に強いと感じた。テストパイロットとしての誇りも持ち合わせつつ、上手くそれを現在の状況に順応させた現実の分かる人間だと感じた。その側面に拘るならば、アカシがやけに活躍する状況には不快な感情を抱くと見るが、彼女は黙してサポート的役割に徹していた。描写こそあまりなかったが、陰の功労者である。泣いているササメを気遣う場面もあり、自我の強いお姉さん的なキャラクターであると感じた。須崎と仕事上で馬が合うに違いない。プライベートは分からない。

  ササメは純ヒロインとしての性質を見せた。何処か儚く、自身を見せず、淡々と任務に就く。そしてアカシに危険が迫ると、身を挺して助けに向かう。素晴らしいヒロイン像であると感じた。一種超人的な感じを受ける振る舞いである。アカシに感情移入した立場としては、静かながらも大変に魅力的なキャラクターであった。一見するとあまり何も考えていないように見えるが、それは思いをあまり口にしないだけで、どちらかというと行動や仕草に表されていた。それがまた儚げなヒロインとして可愛らしく、時折見せる行動には明らかに思いや考えが示されていて、控えめではあるがしかし芯は確かに在るところがヒロインとしての魅力を高めている。

  ツグミは先も申したように、複層的な表情を見せた。境遇としては一番の過酷を抱えたと察するが、それでも自身の罪なのではないかとして煩悶し続けているところに、人の良さが表れている。ササメの弱い部分を感じつつもそれを糾弾することなく認めてきたが、心の限界になってそれを吐き出しているところはとても人間らしかった。その優しい部分はミナシによって試された場面からも明らかと言える。須崎と喋る際に途端に普通らしくなるが、勿論それは若干魂が浄化されたからにもよるが、それはその応対によって狭い世界が途端に相対的になったからであろう。長い呪縛から解放された瞬間とも言える。外部の人間に普通に話されると、それまでの憎しみや罪悪感への苦しみが途端に小さくなった気分になる。また憎しみを世界全体ではなく、あくまで当事者達に向けていた所は、彼女の強さと言えるし、戻って来ることを信じ続けた証とも形容出来よう。

  須崎は恐ろしく人望がある。まさに大人の人間といった様子を見せた。

  カサネは優しいが元々悲観的な側面があるように思う。一番普通の人間らしい気がする。ずっと感情に流されている印象を受けた。理系の研究者には居なさそうなタイプだが。夏入が上にいる為に無力にも見えるが、人間として不能な訳では無い。

  ヘイト、夏入に関しては突き抜けた感がある。双方に共通するのは他人などどうでもいいこと。自身の内の欲望や衝動に忠実なので裏表は無いが、これを他人事と捉えられない場合は恐ろしく腹が立つ。

  アオシに関しては、隙の無さすぎる事が短所となった感じがある。

 


・総評

  娯楽性よりも描写を重視している。心に関心がある場合は面白いと思われる。物語自体は分かり易い。回想中心の為、過去からの解放はテーマというよりかは全体の流れとしてあると思う。段々と無明領域に魅力を感じた。良い場所設定なのではないか。主人公の精神治療の物語ともとれる話だった。この戦いが無ければ、主人公は暗い人生を続けたのではないか。このような成長物語として捉えた場合、前半の静かな話はその成長を裏付けるための行動記録と言える。

  壮大なドラマを見た気分なので、満足は十二分に得られた。派手な演出や明朗なやり取りは殆どないので、暗中模索する人間らが観たいなら観たらいいのだと思う。それ以外にも楽しみ方はあるに違いないが、私個人としてはそんなところだと思う。

 

・最後に

 観て頂かないと何言ってんのか分かんないですよね…もっと流行って…。